松岡映丘@練馬区立美術館
ケチな私に取っては珍しくリピートで訪れた展覧会です。
もっとも、初回は知人のお伴で内覧会を見せていただいたのですが、その罪滅ぼしの意味もあり、再訪です。
今日は山下裕二先生の講演があり、運良く倍率が2倍の抽選に当たり拝聴することが出来ました。
松岡映丘、展覧会に行くまで全然知りませんでした。
私の無学故かと思っておりましたら、昭和13年に没した後に急速に忘れ去られてしまった画家だそうです。
その理由の一つに、やまと絵を良くし、その画題も国風だったことがあるそうです。
山下先生のお話では、美術史は常に書き換えられて行くものであり、こうした再評価はこれからもまだまだあるとの事でした。こうした再発掘に近い仕事のおかげで、今日のように素晴らしい絵を見ることが出来るのは嬉しい限りです。
講演会の中でおもしろかったお話をいくつか記します。
「筆ネイティブ」
おもしろい言葉です。
その人が物心ついて、初めて手にした筆記道具が筆であったような人に対して、山下先生が命名した言葉だそうです。この松岡映丘の年代当たりの人までが、ギリギリで筆ネイティブだそうです。そうした人種でないと、これらの絵に現れるよな線は描けないとの事でした。
これから未来永劫、若冲の描いた線を越えるような線を描く人は出てこないであろうとの事でした。
ちょっと寂しい気もしますが、それだけ今に伝わっている様々な名画がより愛おしくなるようなお話でした。
「軸装に耐えてこそやまと絵」
やまと絵は絹地に薄塗りをして絵が描かれるものであり、その顔料が絹地にしっかりと固着して軸装に耐えるようなものではならないそうです。そうした薄塗りであっても、この松岡映丘の絵のように色鮮やかに描くためには、最高の絹地と絵の具、そして裏彩色など技術を駆使して描く事が必要だとのことでした。
山下先生としては、顔料を厚塗りして殺風景な額に納まっている日本画は認めたくないとの事でした。
1回目に展覧会を見たときに、これだけ鮮やかな絵画で軸装である事が少し不思議に思っていたのですが、そうした確かな技術と材料に裏打ちされて鮮やかさだったのですね。つくづく感心するお話でした。
「実物のサイズを感じる事が大切」
絵画は美術館等で実際に実物を見ることがとても大切との事でした。
カタログや画面で見るのとは感じ取れる情報量は圧倒的に違うそうです。今回のチラシに使われている「千草の丘」もそうですが、実物はほぼ初代水谷八重子が実寸で描かれている大作です。これはその絵を前にするとカタログ等で感じるのとは桁違いの感覚ありました。水谷八重子の楚々とした感じが非常に良く感じ取れました。
全方位的に良い絵ですね。
講演会は、非常にお話が上手であっという間に過ぎてしまいました。
図らずも、前回の内覧会にお伴をさせて下さった知人とも一緒でして、ぼそぼそと話をしつつ、講演会で仕込んだ情報を加えつつ、絵を見て廻りました。
最初の展示室に映丘が6歳の頃に描いた武者絵があります。まさに神童級です。7歳の頃、16歳の頃に描いた武者絵もあります。本人は大の甲冑マニアだったそうで、そうした出で立ちの写真もありました。
そして、最後の展示室には、限りなく絶筆に近い六曲二双の「矢表」という大変鮮やかな武者絵があります。
この絵最後の絵を見ているときに、その知人曰く、
「やっぱり、この人は武者絵が描きたかったんだね。」
なるほど。
本当にそうだと思います。
とてもきれいに、自分の好きなことを追求した画家だったのではないかと、心底思えて来ました。